Non Fiction Novel “The Seed and Sower” and the movie “Merry Christmas, Mr.Lawrence”

ノンフィクション・ノベル『影の獄にて』と映画『戦場のメリークリスマス』

ユング派分析家の河合隼雄は、スイスのユング研究所に留学時代、教育分析をうけていたマイヤー教授から、ヴァン・デル・ポストの『影の獄にて』を読むように薦められた。彼は「東洋と西洋の相克と理解」、「日本人と西洋人の深層意識」を描き出した深遠な内容に、感動で人目もはばからず、駅中でひとりで泣いていたという。

 河合は、まさにヴァン・デル・ポストが『影の獄にて』を出版した1952年に京都大学を卒業した。どの軍国青年も体験したアイデンティティ・クライシスの反動から西欧流の合理主義に傾倒していたが、米国の合理的な社会制度・思想に触れ、自分の日本人としてのアイデンティティについて深く考えるようになったという。そんな彼の指導教官であったUCLAのブルーノ・クロッパー教授も、かつてドイツに在住し、ナチスの迫害を逃れて米国へ亡命したユダヤ系であった。ユング研究所に1年間の滞在した経験のあったクロッパーは、河合が米国で学位を取るよりもチューリッヒでユング心理学を修める方がよいと考え、河合にスイスへの留学を勧めたのだった。その彼が、チューリッヒで、この本に出会うとは何という偶然だったろう。感動したのは、その本の内容だけでなく、その運命に感じ入ることもあったに違いない。

 後に『影の獄にて』の第一部「影さす牢獄子」と第二部「種子と蒔く者」を一つのシナリオに盛り込んだ映画「戦場のメリークリスマス」を監督した映画監督の大島渚も、河合隼雄同様のアイデンティティ・クライシスを同じ思いであったであろう。小説中に登場するヨノイ中尉は、兵役に就くまでは、神戸の税官吏のたぐいとハラ曹長は推測するのだが、彼が映画でデビット・ボウイが演じるジャック・セリエ少佐の遺髪を神社に奉納したという下りで、戦前の日本思想を思い浮かべるのである。奇妙なことに、河合や大島は過去を否定し、目を外に向ける一方、ヨノイ中尉は、このような“不名誉なドラマ”を封印して、戦死者を弔う隠遁生活を送っていたに違いないのだ。まさにジャック・セリエの魂は、日本に種を蒔いたのだった。ヨノイを演じた坂本龍一の父親は、河出書房の編集者で、三島由紀夫を担当した坂本一亀である。

 三島の「禁色」をモチーフに映画「戦場のメリークリスマス」のサウンドトラックを「Forbidden Colors」という曲名に変え、作詞した英国のミュージシャン、デビット・シルヴィアンは、おおよそ、すべてのコンテクストを織り込んで、この曲を歌ったに違いない。ここにもまた新たな種子がまかれたのだ。
この私にも。

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